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前ページ次ページゼロの天使 魔法学園に戻ったミトスはルイズの部屋に一番近い所にある木陰に身を寄せ、これからの事を考えた。 (元の世界に戻る・・・気にはならないな) 自分が消えた以上ロイド達はすぐに大樹を蘇らせるだろう、そうなれば大樹の種子と融したマーテルは消え去る。 姉さんの居ない世界で何かをする気は・・正直おきなかった。 「気になるのはどうして僕がこの世界に呼び出されたのか・・」 そう言ってミトスは自分をこの世界に呼び出した少女の部屋に目線を送る。 ルイズの話では使い魔はこの世界の生物が呼び出されるのだと言う。 そうなると別世界から呼び出された自分は全くのイレギュラーな存在と言うことに成る。 自分の左手をかざすとルイズに刻まれたルーン文字が薄っすらと浮かんでいる。 ルイズから施された使い魔のルーンは本来動物用なのだろう、ルイズに対して親しみのような感情こそ有るが、拘束力としては弱いし人間の寿命など精精70年程度だ。 (僕がこの世界に呼ばれたのはただの偶然か、それとも何か意味が有る事なのか、どちらにせよ今はルイズの使い魔を続けるのが利口かな・・) ミトスは軽く背伸びをすると、そういえば自分一人で野宿するのは初めてだった事に今更ながら気が付き目を閉じた。 朝になりルイズの部屋に行く、昨日言われた通りドアをノックするがいつまで立っても返事が無いので、中に入るとルイズはまだベッドの中で気持ちよさそうに寝ていた。 「ルイズ、朝だよ」 「うぅ~~~ん後5分~~、スースー」 後5分で起きる生命体は絶対に居ないので今度は布団を引っぺがす。 「ふにゃ…!なに?なにごと!」 突然の出来事に戸惑うルイズは寝ぼけた頭で周りを見渡す 「ふにゃ~アンタだれ~~」 「朝だよ、ルイズ」 次第にクリアになる頭でルイズは昨日の事を思い出す。 ( そ、そうだ昨日エルフを使い魔として呼び出したんだ ) 昨日のやり取りを思い出したルイズは取りあえず使い魔のエルフに命令してみる 「服と下着」 「下着の場所は?」 「一番下の引き出し」 自分の命令に素直に従うミトスを見て気分を良くしたルイズは服を着せるよう命令してみる。 これにはミトスも少し戸惑ったが慣れない手付きでなんとかルイズを着替えさせる。 (よーし♪よし!ちゃんと私の言うこと聞てる、次は~) グ~~~~~!! ルイズのお腹から大きな音がする 「・・・・・・・・・」 「・・・・・な、何よ!着替えが終わったら朝食に行くわよ!」 顔を真っ赤にしたルイズは自分が昨日から何も食べていない事に気が付き部屋の扉を開けた。 「あら。おはよう、ルイズ。」 朝から嫌な奴に会った。ルイズが扉を開けたちょうどその時、同じように扉を開けて燃えるような赤い髪の女の子が出てきた。 「おはよう、キュルケ」 事務的な挨拶を返す 「ふ~ん、貴方が昨日召還されたって言うエルフね~」 キュルケは値踏みをする様にミトスを見る。 「そ、そうよ!私の使い魔はエルフなんだから!貴方のサラマンダーなんか足元にも及ばないわ!」 ルイズはキュルケの足元で控えているサラマンダーを指差す。 「ふーん、でも貴方本当にエルフなの~?」 意に介した様子も無く逆にキュルケは疑いの眼差しをミトスに向ける。 実はハーフエルフなミトスだったが自分の外見はエルフと大差ないので髪をかきあげ、エルフの証である尖った耳を見せる。 「ふ~ん、確かにエルフみたいだけど召還したのが「ゼロのルイズ」じゃねー」 キュルケは小馬鹿にしたような口調でルイズの顔を覗きこむ。 「な、なにが言いたいのよ!」 「言葉どおりよ、ゼロの貴方の所にエルフが来るなんて可笑しいもの」 (カチーン!) ルイズの中で何かが切れた。 「な、なななな何よ!貴方の使い魔だって大方、雌を漁りすぎて故郷に居られなくなったから仕方なく此処に来たんじゃないの?誰かさんと同じで」 このルイズの暴言にキュルケもカチーンときた。 「言ったわね!ゼロのルイズ!」 「何よ!この色魔!」 般若面も核やと言う形相で二人はにらみ合う 「フレイム!やっておしまい!」 「ミトス!こいつら、ぶっ飛ばし・・・アレ?」 気が付くとさっきまで隣にいた使い魔がいない。何処に行ったのかと首を傾けると自分の使い魔は在ろう事かキュルケのサラマンダーと遊んでいた。 「あはは、人懐こいなーオマエ」 「キゥルルルルルルル♪」 頭を撫でられたフレイムは嬉しそうな声をあげる。 「ミトス!あんたツェルプストーの使い魔なんかと何じゃれあってるのよ!」 「ふ~ん、フレイムがあたし以外に懐くなんて・・・」 主としては少し複雑だったが楽しそうな使い魔達を見て興がそがれたのかキュルケとルイズはその場を収める事にした。 「じゃあね~ルイズまた後で」 そう言うとキュルケはフレイムを伴って立ち去る。 去り際にミトスとフレイムが互いの顔を合わせ、軽くウィンクしていた。 (使い魔はたいへんだ・・・) 前ページ次ページゼロの天使
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「宇宙の果てのどこかにいる私の僕よ! 神聖で美しく強力な使い魔よ! 私は心より求め訴えるわ! 我が導きに答えなさい!」 私の渾身の力を込めた呪文で、予想通り地響きのする爆発が発生した。 (まーたルイズが失敗したよ) 外野の雑音を無視して目を凝らすと、土煙の中に何かの影が見えた。 やったの?召喚できたの? 風が吹き、土煙をかき消していく。 その姿が顕わになっていくとともに周りのどよめきが大きくなる。 そこに居たのはまさにルイズの理想の姿であった。 「ち、ちぃ姉さま?」 まさか、使い魔として実の姉、敬愛し理想とする姉を召喚してしまったのか? 愕然としたルイズの顔面が一瞬で蒼白となる。 「あー、ミス・ヴァリエール、はやく、コントラクト・サーヴァントを」 付添の教師であるコルベールの声と共に、ぎくしゃくとした動きでルイズが近寄る。 ちぃ姉さまことカトレアらしき人物はゆらゆらと立ってじっとルイズを見つめる。 (あ、似てるけど、違……う) 違和感があった、目の前の女性は、確かにカトレアそっくりだが、更にルイズの理想に近かった。 (ええい、とりあえずー) 「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール 五つの力を司るペンタゴン この者に祝福を与え、我の使い魔となせ」 ルイズは呪文を唱えそっとキスをしようとした。 「ここじゃだめね」 「は?」 キスとしようと肩を掴んだら、その女性は初めて声をあげてルイズをふりほどいた。 おもわず愕然としたルイズをしり目に、その女性は淡々と告げる。 「ちょっとトイレ借りるわね」 「へ?」 ルイズの呆けた顔をしり目に、その女性は塔の方へ走っていった。 「おーい」 その姿を見送っていたルイズの口から、なんとも、気の抜けた呼びかけが走りゆく女性の背にかけられる 「あとでね」 カトレア似の桃色の髪のルイズの理想とする女性は、わき目もふらずに走っていった。 その場にいた全員はあっけにとられモブと化していた・・・・・ 「い、いったい、何? 何を召喚したの? 私」 人工少女3のT型を召喚
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前ページ次ページゼロの斬鉄剣 ゼロの斬鉄剣 5話 ―泣き虫(クライベイビィ)・ルイズ 後編― 早朝 いつもより若干早く目を覚ます五ェ門、ハシバミ草の効能のおかげで肌寒いものの 風邪は引かなかったようだ。 「さて、とりあえず洗濯をいたそう。」 さすがにルイズの洗濯物は無いので今日は五ェ門の胴衣のみだった シエスタが五ェ門に声をかけたのは既に洗濯が終わり焚き火で干しているときのことであった 「おはようございます、ゴエモンさん。」 おお、と振り向く五ェ門 「おはよう。昨日は馳走を頂き感謝している。」 くすっと笑うシエスタ 「いいえ、まさかゴエモンさんの故郷と曽祖父の故郷が一緒だったなんて。」 なるほど、そういわれればこの黒い髪と黒い瞳、どおりで日本人を感じさせるわけだと五ェ門は納得する。 「ところで、今日はミス・ヴァリエールの洗濯物はないんですか?」 うっと顔が引きつる五ェ門 「ああ、面目の無い話だがルイズと喧嘩になってな・・・」 「まあ、どうしてですか?」 「話すのも恥ずかしい理由なのだ、捨て置いてくれまいか。」 心配そうに顔を歪めるシエスタ 「まあ、早く仲直りできるといいですね。」 「うむ、拙者の不注意でルイズを怒らせてしまったのであるからそういたすつもりだ。」 「がんばってくださいね、ゴエモンさん。」 シエスタは名残惜しそうに五ェ門の元を去る そのころのルイズ 「おっほっほ、貴方の使い魔はこのキュルケ無しではいきてはゆけないのよ?」 「拙者、キュルケ殿にぞっこんでござる。」 「ゴエモン、私の靴をおなめ!」 ペロペロペロ 「やめてー!」 絶叫とともに目を覚ますルイズ 「はあ・・・はあ・・・最悪の目覚めだわ・・・」 部屋をみわたすルイズ 「ちょっとゴエ・・・・」 言いかけて昨日の出来事を思い出すルイズ 「(そうだったわ、ゴエモンは昨日私が・・・)」 ため息をつくルイズ 五ェ門が来てからというもの朝の決まった時間には起こしてくれていた。 しかし今朝は五ェ門はいない。 「(やっぱり、言いすぎだったのかしら・・・いや、いけないわ、いくら強いからって主人はあくまであたしなんだから!)」 気を引き締めるルイズ 扉をあけ、そそくさと食堂へ走るルイズ 入れ違いで五ェ門がルイズの扉を叩く 「(いない、か)」 そこへキュルケとタバサが現れる 「あらダーリン、おはよう」 「・・・・おはよう」 「うむ、二人ともおはよう、しかし何だそのだありんとは。」 くすっと笑うキュルケ 「それより昨日はごめんなさいね。」 おもったより素直な言葉を聞いた五ェ門 「もうよい、キュルケはもっと自分を大切にするんだな」 「あら、でもあきらめませんことよ?」 ニンマリわらうキュルケ 「(まったく、こりないな。)」 ふと、タバサがキュルケの前に 「タバサ、昨日の差し入れ、いたみいる。」 「いい・・・きにしないで。」 頬がわずかに赤らむタバサ それをジト目で見るキュルケ 「あら、あたしの誘いを断った後でお二人は何かあったのかしら?」 ちょっとすねるキュルケ 「いや、いろいろあってハシバミ草の差し入れを頂いたのだ、これが美味でありがたかった。」 「・・・・ゴエモン、あなたハシバミ草たべれるんだ。」 「うむ、おかげで今朝は思いのほか目覚めはよかった」 驚く顔をするキュルケ 「そ、そう、じゃああたしたちは食堂いくから、またね~」 タバサをつれ食堂へ向かうキュルケ 「(あの二人はあんなに違う性格で仲がよいのだな。)」 ふと、五ェ門の脳裏に相棒二人の顔が浮かぶ 「(今頃ルパンと次元は何をしておるのだろうか。)」 ちょっとセンチになる五ェ門であった 食堂でさっさと食事を済ませたルイズ 「(なんでゴエモンは姿をあらわさないのかしら・・・・)」 あの律儀な五ェ門のことだから朝になればなんらかのアクションを起こすと思っていたが 微妙なすれ違いで肩透かしをくうルイズ 「いけない、今日の朝は秘薬に関する筆記試験だったわ!」 はっと気がつきそそくさといつもの教室へ向かうルイズ 「むう、試験中とは・・・」 今度こそルイズにきちんとお話しておこうとおもったのだが いざ向かった教室には、「試験中につき立ち入りを禁ず」の張り紙 仕方が無く教室のエントランスにある椅子へ腰をかける 間もなく早く終わった生徒が何人か出てくる 「あ、あなたは・・。」 む?と顔を上げるゴエモン 「そなたは、昨日の・・・」 「モンモランシーですわ。」 「拙者は石川五ェ門と申す」 「あら、貴方のことはもう知ってるわ」 クスリと笑うモンモランシー 「昨日は、そのすまないことをした。」 首を振るモンモランシー 「あなたのせいではなくってよ。悪いのはギーシュなんですもの。」 すこし申し訳なさそうにする五ェ門 「あの後ね、私に謝ってきたわ。ひどい姿だったけど」 思い出すように笑うモンモランシー 「私、彼を許すことにしたわ」 ほう、と五ェ門 「だって、いつまで怒ってもしょうがないでしょ?それにあの日は私の香水をつけてくれたんだもの」 「(ううむ、拙者は香水は苦手なのだ。)」 と口には言わない五ェ門 「ただし、今後浮気は許さないっていう条件でね。」 ふっ、と五ェ門は笑う 「とにかく、彼は貴方にお詫びがしたいといっていたわ。」 「ほう、あれだけ痛めつけたのだから拙者をうらんでいるとおもったが。」 「あら、彼は仮にも誇り高き軍人貴族よ?第一そんなに狭量な男ならとっくに見捨てているわよ。」 ふふふと笑いながら五ェ門を見つめるモンモランシー 「私も貴方に感謝しているわ、ギーシュもちょっとはいい男になったし、浮気しないって誓ったし。」 「まあ、そういうことなら拙者からは仲良くやれというしかないな。」 「ふふ、ありがとう、じゃあ私はこれで失礼するわ。」 うむ、と五ェ門は頷きモンモランシーの後姿を見送る ―― 「(ふう、やっと終わったわ~、魔法薬の試験はすこし苦手なのよね)」 まずまずの出来だと自負するルイズ 「(さて、ゴエモンはまっているかしらね?)」 そう扉をあけると そこには楽しそうに談笑するモンモランシーと五ェ門の姿があった にわかにルイズの怒りが沸点に達する 「な・・・なによ!なによなによなによ!キュルケの次はモンモン!?」 ギリギリと歯軋り 「なによなによ!あたしがおちこぼれだからって!使い魔にまでなめられるなんて!」 ボロボロと涙を流し始めるルイズ モンモランシーを見送り扉に目をやると、そこには涙を流した鬼神が立っていた 「(何事が起きたのだ・・・)」 無言で五ェ門に近づくルイズ 「あんたなんて!あんたなんて!・・・ファイヤーボール!」 「むっ!」 バーン! ギリギリで交わしたが至近距離の爆風を受ける五ェ門 先ほどまで座っていた椅子は粉々だ。 「くっ、待て!ルイズ!」 喚きながら走り去るルイズを追いかける五ェ門 ルイズは扉に鍵を閉め、ベッドにもぐりこむ ドンドンと扉を叩く五ェ門 「うるさい!ゴエモンはどうせあたしのことばかにしてるんでしょ!」 涙声で叫ぶルイズ 埒が明かないと五ェ門は 「御免!」 キィン!キィン! ガラガラ・・・ 扉を切り倒しルイズのそばへ 「ルイズ・・・」 「こないで!なんなのよ!ほっといてよ!」 子供のように泣きじゃくるルイズ 立ち去ろうとしない五ェ門に当たるルイズ 「ばか!ばか!みんなあたしを馬鹿にするんだ!」 叩かれ続ける五ェ門 バシ!バシ! 何度も五ェ門の体を殴るルイズ 「ひぐっ!なんで・・・なにもしてこないのよう!」 一切抵抗しない五ェ門の態度にますます惨めになっていくルイズ 「なきたければ泣け、当たりたければ当たるがよかろう。」 だんだん五ェ門を叩くルイズの力は弱くなる ふと五ェ門がルイズの頭をなでる 「拙者は必死で努力し食らい付くルイズを認めている、見捨てるわけがなかろう。」 ぐしゃぐしゃになった顔を上げるルイズ。 「じゃあ、なんで・・・なんでキュルケやモンモランシーなんかと・・ぐす・・なかよくしてるのよ!」 五ェ門は昨日からの出来事をきちんと説明する だんだんとルイズの顔から怒りが消えていく 「と、いうわけだ。別に拙者はルイズをないがしろにしたわけではない。」 それに、と五ェ門 「お主はもっと自分に自信をもつのだ・・・だが辛くなったとき、泣ける時に泣くがよい、世の中泣くことも叶わぬ事もあるのだからな。」 ルイズは大声で泣いた 「うわああああああん!」 ルイズが人の胸の中で泣くなんて何年振りの出来事だろうか。 慈愛に満ちた目でルイズを見る五ェ門 そうしてルイズが泣き疲れて寝るまで五ェ門は懐を貸すのであった。 ルイズと五ェ門がすこし近くなった、そんな日の出来事 つづく 後日談― 次の日、学院から通達があった ―エントランスの椅子と寮の部屋の扉を弁償してね(ハート) オールド☆オスマン― 次の日、五ェ門はあまり睡眠を取れなかったが爆破された場所の掃除をしているのであった 前ページ次ページゼロの斬鉄剣
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前ページ次ページときめき☆ぜろのけ女学園 たまたま紛れ込んでしまった妖怪の世界。ルイズ・ヴァリエールの新たな学園生活はここから始まる事になった。 「凄ーい!!」 多種多様な妖怪の生徒達の登校風景に、ルイズはすっかり目を奪われていた。 「ルイズ、楽しそうだね」 「あほうのように口が開いてる。あほうのように」 「あーっ、2回もアホって言った!!」 するとそこへ、 「先生、おはようございます」 「おはようございます」 (あ!! ミス・ロクロクビ) 「首どうしたんですカー?」 「先生ー」 見るとろくろ首先生の首は螺旋状にねじれていた。 「寝違えただけです。心配要りません」 (うわあ、ミス・ロクロクビ、寝相が悪いのね。意外……) そこまで言ってルイズの頭にとある疑問が浮かんだ。 「ねえねえキリ、妖怪にも男っているの?」 「いるにはいるけど……」 「ろくろ首にも男っているの?」 「私は見た事無いなー」 「あたしもー」 「そう……。それじゃわからないわよね……」 「何が?」 「男のろくろ首の喉仏って、上にあるのか下にあるのか気になって……」 「………」 「あー、それは気になるなっ」 ペロは自分の頭頂部を指差し、 「あたし的にはこの辺に付いてると押したい感じでいいと思う」 「……押したい? っていうかそれもう喉仏じゃないじゃない!!」 「ルイズは喉仏が好きだなあ、スキモノめ」 「そうじゃなくて!! 喉仏の話してたんでしょ!?」 「ルイズルイズ、ペロはいつもこうだから。それより急にそんな事気にしてどうかしたの?」 「うーん、ここで生活するって決めたらいろいろ気になっ……ああああ! じゃあじゃあじゃあ、男の妖怪がいるならもののけ男子学園もあるの!?」 「も……、もののけ男子学園ー!?」 「なあに、ルイズは男に興味があるの?」 「や……、そういう意味じゃないけど……っ」 「男なんてじじいとハゲしかいないよ?」 「えっ? そうなの?(どうやら私の学園ライフに恋の話は無さそうね。……まあ、学生の本分は勉強だから! ……ん、勉強?) そこまで考えてルイズはもののけ女学園での授業の事をふと考えた。 (妖怪の学校って何の勉強するの?) 考えてみれば昨日の授業を早退したため、もののけ女学園でどのような授業をするのかまったく知らない。トリステイン魔法学院とは明らかに違うのだろうと察しはついていたが。 ――リーンゴーン 「はい、席に着いてー。授業を始めます」 チャイムが鳴り、ろくろ首先生が教室に入ってきた。 (妖怪の勉強!!) その時ルイズの頭に浮かんだのは、 先住魔法で煙と共に姿を消す自分。 自身の長髪を針のように硬化させて発射している自分。 カラスの大群がぶら提げている座席に座り空を飛ぶ自分……。 ……そんな授業風景を妄想してわくわくしていたルイズだったが、 「今日の授業はもののけとしての妖艶さを磨くために、お化粧の学習をします」 ろくろ首先生の言葉はそんなルイズの期待を一瞬で粉砕した。 「ルイズ、どうしたの?」 「……いいのよ、期待しすぎた私が悪かったわ」 その言葉に一気にへこんだルイズにキリが声をかけるも、ルイズはそう答える事以外不可能だった。 ろくろ首先生は化粧道具の詰まった箱を教卓に置き、 「道具は教卓に置いておきます。各自化粧ができたら見せにいらっしゃい。先生は今日は首が苦しいので保健室で休んでます」 (やっぱり苦しいのね) ルイズがそんな事を考えていると、ろくろ首先生は思い出したように扉を開けかけた手を止め、 「あー、先生がいないからってサボったり美しく化粧できなかった子は……」 そこで教室内に振り返り、 「……お仕置きしますからね」 その言葉に教室内の温度が一気に低下した。 「お化粧かー。私下手くそなんだよねー。ルイズは?」 「私結構得意よ。こっそり母様ので練習してたから」 「えーっ、ルイズ凄ーい」 「ほらキリ、こっち向いて」 そんな会話を交わしつつ、ルイズはキリの唇に手際よく口紅を塗っていく。 「うわあ、キリ、可愛いわっ」 「口紅塗っただけでしょ?」 「ええ。でもそれだけでも凄く可愛いわ! いつも可愛いけど」 口紅だけとはいえ上手にできてご満悦という様子のルイズにペロも、 「ルイズー、あたしも! あたしも!」 「いいわよ。任せて、ペロ」 そして化粧完了したペロの顔は……、 「こ……、これがあたし……」 太い眉毛に塗りたくられたアイシャドウ、元の唇から遥かにはみ出している口紅と悲惨な状況だった。 「美しすぎる」 「どこの大女優かと思ったわ」 (それでいいんだ?) あまりにもあんまりなペロへの化粧に内心ツッコむキリだったが、ペロ本人は手鏡に映った自分の姿に見とれていた。 「あの……、私にもお化粧してくださいな」 そう声をかけてきた生徒の顔には目も鼻も口も無かった。 「わー、のっぺらぼう!! お……、お化粧ってどうやって……」 流石にルイズもどうしたものか困惑する。 「ビジュアル系っぽく」 「ビ……、ビジュアル系!? ……て、あれ?」 ふと気付いてその生徒の後方に視線を向けたルイズの見たものは、 「私も」 「私も」 「私も」 「私も」 「えーっ!?」 ずらりと並んだ生徒達だった。 「ちょ……っ、みんな、自分でやりなよ。ルイズが困ってるでしょ」 「いいわよ、キリ……。私やるわ!!」 そう言うが早いか神速と言うべき速度でルイズは作業を開始する。 下半身が蛇の者、9枚の皿を抱えた者、紙製の傘を被っている者、小豆入りの籠を持っている者、両腕が鎌になっている者……。みるみるうちにルイズの手で化粧が施されていく。 (ルイズ、凄い……っ) それを見ているキリは目を見開き頬に汗を流している。 (……何て酷いお化粧センス!!) 着物姿の少女の左目の周囲に描かれた大きな丸を呆れた視線で眺めるキリ。 (あの丸とか意味わかんないし) それでも明るい笑いを浮かべ嬉々として化粧を施していくルイズの様子を、微笑ましげに見つめていたのだった。 (でもまあ……、楽しそうだからいっか) ようやく全員への化粧が終わった教室内。 「あー、やっと終わったわ」 「お疲れ様! みんないそいそ先生に見せに行ったよ」 「あああっ!」 ルイズをねぎらうキリとは対照的に、ルイズは化粧道具が入っていた箱の中を覗いて愕然という声を上げた。 「私まだ自分のお化粧してないのにお化粧道具使い切っちゃった!」 そう、準備されていた化粧道具は生徒達への化粧で使い果たされていたのだ。 「口裂け女とか口紅凄く使ったしね。どうしよう……」 すっかりちびてしまった口紅を手に途方に暮れるルイズ。そこに、 「ルイズ」 「え……?」 振り向いたルイズの言葉を途中で遮るように、キリはルイズの唇に自分の唇を重ねて口紅を付けた。 「キ……、キリ、んっ」 「かわい」 十分口紅が付いたところでキリはそっとルイズの唇から離れた。 「さ、先生に見せに行こ」 保健室に向かうキリを後目に赤面して硬直するルイズ。 (キ……、キスしちゃった!!) その頃保健室では……、 「ぎゃあああああああ!!」 ルイズによる凄まじい化粧が施された生徒達の顔を見たろくろ首先生の悲鳴が響いていたのだった……。 前ページ次ページときめき☆ぜろのけ女学園
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前ページ次ページT-0 目を開くと、摩訶不思議な光景が広がっていた。 まず、ぱっと目に付いたのは周りの風景。広大な大地の幾千先まで所狭しとゴミの山が積み上がっている。 網膜に入る光が極端に少ない、解りやすく言えば暗い。どうやら、今はまだ夜のようだ。 ここは明らかに自分の眠っていた部屋ではない、もはやトリステインですらないことは寝ぼけ眼のルイズにも直に解った。 しかし、なぜかルイズは慌てない。 確かに、どう反応していいのか困る事態ではあるが、不思議とルイズの心は落ち着いていた。 とりあえず、このままボーっとしていても仕方がないと考えたため、歩き出そうと一歩足を出してみる。 そして、その始めの一歩でルイズの心の落ち着きは崩壊した。 カシャン、と音がした。言うまでもなく、ルイズが一歩踏み出したところからだ。 ルイズは最初気にしなかった。周りを見て、コレだけわけのわからない――鉄のように見える――ゴミが四散しているのだ、 歩き続けていればゴミを踏んでしまう事ぐらいわかっていた。だからこの程度の雑音に心揺らされない覚悟はとっくにしていたのだった。 だが、足に何かが引っかかれば、それを見てしまうのは人の性だろう。 ルイズは足を止め、顔を俯かせて足元を覗き込み―――― 「――――――――ッ!?」 ――そして、息を止めた。冷たい汗が体中から一斉に噴き出した。 ルイズの足元には土や泥で汚く塗られ、風化したようにボロボロに朽ち果てた頭蓋骨たちが転がっていた。 「ひっ!?」 勢い良くのけぞったルイズは、その拍子に踵に引っかかった何かによって仰向けに転んだ。 背中に硬いものがちくちく当たる感触がする。そこから当たる物が何か予想したルイズは、恐る恐る首を振り向かせる。 そこにあったのも、やはり頭蓋骨だった。ただし、こちらのはルイズが圧し掛かったせいか所々欠けているものが多く、 その破片がルイズの背中をつついていたのだ。 気がつけば、ルイズは駆け出していた。 ――どこに? 自問自答する、行く当てなど無い。 それでも走らなければなれない気がした。そうしないと、この悪夢に精神がおかしくされそうだった。 走り行く中で気づく。周りに積み上がる鉄のようなゴミ山の中に、人――正確には、『人だったもの』――が多々混じっていることに。 引き千切られ、焼き焦がされ、皆絶望の顔のまま息絶えている。ひどいものでは、顔や体が一部なくなっている人もいた。 途端に吐き気が襲った。どうしようもないそれを何とか止めようと空を見上げたとき、ルイズはこの世界の真理を見た気がした。 「(――――夜なんかじゃない!)」 空はどす黒い雲で覆われていた。 暗黒の入り口と化した空を、奇妙な形の竜たちが爆音を轟かせて縦横無尽に行き交う。 そこに生き物の影は一つとして見られなかった。真っ暗な夜の砂漠のように、冷たい風がルイズの肌に吹き込む。 おぞましい惨状、ルイズは理解した。 この悪夢から逃れる術は無いと――――それは確信に近かった。 大慌てで踵を返し、再びがむしゃらに走った。もう、頭蓋骨を踏み砕こうが知ったことではない。 そのとき、視線の先に一人の人間が立っていた。距離にしておよそ10メートル。 助かった! ルイズは心の底から安堵した。誰かを見つけてこんなにうれしかったのは初めてだと思った。 人間は男だったが、そんなことはどうでもいい。考える余裕すらない。 出来る限り速く走り、息を切らした。距離にして後3メートルといったとき男が振り向く。 反射的にルイズの足は止まった。前のめりに倒れ、滑るように頭蓋骨の絨毯の上を転がる。 男は、昨日召喚したあの男だった。 無感情な鋭い目をルイズに落とし、闇を背景にして増幅させたあの威圧感をルイズに浴びせる。 それだけならまだいいだろう。ルイズもまだ、耐えれたかもしれない。 だが、彼女の繊細な意識は目の前の男の変化に、あっけなく弾け飛んだ。 男の顔は右半分の皮膚がズル剥け、銀色に光る頭蓋骨と赤く光る眼光がルイズを見つめていた。 ベッドから飛び起きた。 それはもう盛大に。木枠が軋み、床を強く衝いた。 額を拭うと、べたついた液体が手に張り付いた。寝ている間にぐっしょり汗をかいていたみたい。 「(無理無いわ。あんな悪夢、見たら誰でも絶対冷や汗かくわよ……)」 心の中でごちると、不意にあの夢が思い出されて体が震えた。風は入ってないのに、なんだか冷風を身に受けた感じだ。 それになんだか心臓がうるさい。出来れば体が落ち着くまで部屋で寝て起きたかったが、あいにくと授業を休むわけにもいかない。 大きく息を吸い、少しだけ気持ちを落ち着かせる。そして吐き出したときにはルイズの目に心が落ち着いた事を知らせる光が少ないながらにやどっていた。 ベッドから降りて服を取りにいく。 「――むぎゅっ!」 その途中、あるはずの無いところにある何か大きな壁にぶつかった。 「いた~、なんなの?」 片手で鼻っ柱を撫でるルイズはもてあますもう一方の手で黒い柱を触る。 硬くて、とても重い。自分の力なんかじゃ到底動きそうも無い。 ルイズの脳裏に次第に昨日の事が思い出されてきて、額から望まない汗がだらだらと溢れ出す。 顔を上げたくないが、ぺたぺた柱を触る腕が上に登るときつい同時に顔も上に上がってしまい―――― 「……………」 「……………」 直立不動に立ち、相変わらずの鋭い視線でルイズを見下ろしている男とばっちり目が合ってしまった。 ルイズの中で時間が停止した。厳密に言えば、錯覚なのだが。 機能停止したルイズの脳裏に、悪夢がよみがえる。 特に鮮明に映えるラストシーン。ハッピーエンドではなく、ルイズ的にバッドエンドな夢物語。 腰を下ろして目と鼻の先に移動した男の顔が、丁度ぴったりあの顔半分ただれた顔と一致してしまい、 「………………きゅぅ」 ショックのあまり、白目をむいて、ルイズは倒れてしまった。 「……え?」 ルイズの間の抜けた声が部屋に木霊した。 だが、目の前に立つ使い魔の男は依然として直立不動、無表情に鋭い視線を保っている。 なぜルイズが間抜けな声をあげているのかといえば、理由はごく単純だ。 気絶からしばらくして復活したルイズは(既に朝食はあきらめていた。間に合うわけが無い、と)とりあえず胸中でびくびくしながらも この使い魔のことを知ろうと名前を聞いてみたのだ。が、 「サイバーダインシステムズ・モデル101型 T-800」 淡々とした口調で表情一つ崩さない使い魔の答えは聞いた事も無い単語で、とてもふざけているとしか思えないような名前だった。 「なに? さいばーだうん? 101型T-800って? ……それがあんたの名前なわけ?」 「そうだ」 即座に、あくまで淡々と機械的に答える使い魔。 感情の篭っていない声は、普段のルイズなら苛立ちを感じるものがあったがこの状況と男の真面目な顔つきには それを通り越して呆れていた。 仮に偽名を使っているとしてもこんな名前は無いでしょう。と、それどころか男に対して多少なりに“ヒいていた”。 「(今時馬だって使わないわよこんな名前。だいたい、型ってなによ? 物や武器じゃあるまいし……なんでそんな数字がついてるの?)」 両腕を組み、むむ~っと頭を捻った。 こいつ、実は何かまずい魔法薬でも飲んでるんじゃないのか? とも考えたが、それにしてはロレツがはっきりしてるし、 常時やけに落ち着いた態度なのがその可能性が低い事を示している。 ルイズは今一度聞いてみた。ただし、今度の質問は問題を解くとき解らなかったら基本的なことに戻ってみるように、 もっと遡った原点回帰、というか、根本的な質問をしてみた。 「あんた、人間じゃないの?」 「ああ」 ……だめだ、こいつはやはり薬をやっている。 ルイズはため息をついた、今までさまざまなため息をついてきたこと(主に魔法の失敗)があったが、 今回は自分でも心底からの落胆の色がはっきり浮かんで見える。 せっかく、やっとの思いで成功した召喚の儀式で誕生した使い魔が、ただの……ううん、薬中毒の平民だったなんて。 ルイズはこの瞬間、自分はやはり落ちこぼれ何だと思い込んだ。 そして、全く事情を察してなさそうな使い魔に向かって、やけっぱちに言った。 「じゃあ、あんた一体何?」 使い魔は珍しく即答しなかった。 表情に変化は見られないが、どうやら返答に迷いを感じてるらしい。 少しの沈黙の後、使い魔はやや感情を込めた声で、言った。 「俺はターミネーターだ」 前ページ次ページT-0
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前ページ次ページKNIGHT-ZERO ノリックに捧ぐ 地球から遠く離れた世界 トリスティン魔法学院 異世界の大陸ハルケギニアに存在する、ふたつの大国に挟まれた中堅の王国トリスティン 王都の郊外、貴族の子女が集うトリスティン魔法学院では、二年生への進級儀式がおこなわれていた 使い魔を召喚する儀式、サモン・サーヴァント ルイズは召喚魔法のルーンを詠唱していた メイジにとって重要な意味を持つ使い魔の召喚 高名な貴族の子女でありながら四系統のどの魔法にも開眼せず、魔法学院の劣等生だったルイズは 数回の失敗を重ねた後、不退転の決意で臨んだこの儀式に自らのメイジとしてのプライドを賭けていた 詠唱が完成する ルイズは神と始祖ブリミル、五つの力を司るペンタゴンに祈りながら、細身の杖を天高く、遠くへ掲げた 爆発 彼女が魔法を発動した時、望まずとも起きる傍迷惑な爆発、いつもより余分な爆発の煙が晴れた後 魔方陣の中心に現れたのは黒い物だった、魔方陣から大きくはみでた未知の物体、大きくて、低い それは獣のようで、美術品のようで、それでいてこの世界のいかなる基準からも外れた造形がなされたモノ あえて形容するならこのトリスティンにも稀に姿を現すゴキブリや南京虫に似ていなくもなかった 召喚に立ち会っていた他の生徒達が騒然となり、続いてどっと笑った、紅い髪の美しい女が進み出る ルイズの悪友にして仇敵ツェルプストー家の令嬢、炎魔法の使い手であるキュルケがそれを指差した その生活態度は奔放ながら魔法に関しては優等生である彼女は、先刻サラマンダーを召喚した 「何この『ウマ無し馬車』は?ルイズ、やるわね、でもせめて生き物を召喚して欲しかったわぁ」 その召喚物の四隅、足ともいうべき場所には4つの丸い物体があって、それに拠って地に立っていた この世界に存在するものの中でそれに似た物を備えていたのは、馬車と労役夫の使う四輪荷車だけだった 少なくともその場に居た学院の生徒達や教師は、それを昆虫を模した奇怪な馬車としか認識できなかった 当時、一部の有閑貴族の間で珍妙な馬車を誂える趣味が流行していて、それは下劣と俗物の象徴だった その物体の片端に赤く光る物があった、奥まった窓の中で紅い光は左右に動き、ヒュンヒュンと不気味な 音を発していた、それすらも皆の目には何らかの魔法を利用した悪趣味な装飾にしか見えなかった 馬車を使い魔にしたなんて前例は無い、儀式に付添っていた教師のミスタ・コルベールはこの召喚もまた 無効に扱うべきかと思ってルイズの肩に触れるが、意固地の塊となっていたルイズはその手をはねのけた ルイズは怒りと羞恥に肩を震わせながら、どすどすと上品でない足音をたてて、その黒い召喚物に近づく とにかくこれは何処からか来た強力な召喚獣だとでも思いこまないことには彼女の神経が保たなかった それにしてはこの物体はあまりにも異形で、召喚主以外の皆は、言葉も無くルイズの奇行を見守っていた ルイズは黒い肌をゴンと叩く、それは木でも鉄や青銅でも陶器でも無い、何一つ分からず、ただ手が痛い 続いて周囲を回る、職人が磨き上げた鏡のような艶のある黒い皮膚には幾つかのごく細い継ぎ目があった 物体を構成する色は黒ともうひとつ、半透明な肌、この世界には存在しない黒っぽく着色した曲面ガラス 顔を張り付かせ覗き込んだルイズは、彼女の知る馬車と同じく人の乗る内部を備えている事を確めた 続いてヒュンヒュンとうるさい小窓、杖を突っ込んでみたが魔法らしき反応は無く、ただ赤い光が動く ルイズは目の前に現れた奇怪なウマ無し馬車の横腹、黒い体の中心にある取っ手らしき継ぎ目に手をかけた 公爵家の令嬢であるルイズは馬車には乗りなれていた、そして異世界のデトロイトで作られたその物体の 側面に設けられた入り口の開閉方法は、その異世界にも存在した馬車のそれとさほど変わらなかった 取っ手が微かに光り、黒い物体の外板が大きく開く、軽い、内部はタン色を基調とした布張りだった ルイズは勇気を振りしぼってそのウマ無し馬車の内部へと侵入した、仄かな人間の体臭に少し安心する その漆黒の外見に反して明るいウマ無し馬車の内部、ルイズは目の前に広がる光景にただ唖然としていた 赤、緑、黄色、青、その他様々な色彩の光がルイズの顔を照らし、彼女はその様にしばらく見とれていた これはただの馬車ではない、しかし生き物にはとても見えない、どこに目鼻や口があるんだろうか 馬車だって前には馬がつながれているが、この物体の外部にも内部にもそれらしき物は無かった ルイズはウマ無し馬車の内部にあったタン色の座席らしき物を指先でそっと撫で、恐る恐る尻をつけた 様々な光源の向く方向から、目の前にあるこの席は下僕が座り手綱を握る御者席だと推測したが 馬車において主人が座るべきとされる後部の座席、薄っぺらく狭苦しそうな後席を一瞥したルイズは この綺麗な光に取り囲まれた大きな座席こそが、主人たる自分を受け入れるべき所だと決め付けた 隣には同じ大きさの座席が存在していたが、その席の前にはルイズの心を捉えた不思議な光は無かった 少なくともこれで前後左右はわかった、ルイズはこの何もかも不明な物体の左前の座席に落ち着く 席に座ったまま、天の川のような光の洪水と、右手にある水晶球のような四角い漆黒のガラスを眺めた 隣の席とを隔てる箱にはタイル細工のような色とりどりの四角が並び、その前には黒い棒状の突起がある ルイズは室内の真ん中から生えた突起の先端に触れ、しっかりと握った、硬い、力を加えたが棒は動かない ルイズが身を預けたタン色の座席は地球におけるビロードかコノリー・レザーに似た合成の素材で 肌に吸い付くような感触はなぜかルイズに安らぎと、それとは違う奇妙な昂ぶりを感じさせるものだった それはそうと、ルイズは困惑した、サモン・サーヴァントの儀式にはもうひとつの過程がある 召喚した者と使い魔の契約を交わす儀式、口付けでルーンを刻むコントラクト・サーヴァント 突然、目の前の光の一部が点滅し、ルイズが乗っかっていた座席が不気味な振動とともに動き始めた ルイズは「ヒっ!」と声を上げて体を震わせるが、座席はそれに構わずジッ、ジーッと動き続ける 座席はルイズを乗せたまま前に、そして上に動き、背もたれが今までの位置より少し立ち気味になる 続いて座席のルイズと肌を接触している部分が膨らみ、萎みながら、その全体の形状を微妙に変更させた この物体の座席は身長153サントのルイズを最適の姿勢に導くかのように動くと、再び静止した ルイズは自分の前方、自然に手を伸ばした位置にある操作物らしき物に手を触れ、その端を握りこむ それは最初は少し太かったが、キュ、キュ、と内部で何かが動く音と共に手にしっくりくる太さになった 足裏が何かに触れる、二枚の板、ジジッという音とともにそれはルイズの足の長さに合わせ調節された 踵のある編上靴を嫌い、薄い革底のバックル付ローファを履いていたルイズの足裏に二つの板が当たる 先の尖った長靴が乗馬に最適であるように、ルイズの平たい靴はその二枚の板の操作に最良の物だった 実家の所有する広大な領地を馬で駆け回り、乗馬の腕には少々の覚えのあるルイズはすぐに気づいた 目の前の握り手はこのウマ無し馬車の手綱で、両足で触れるそれは鐙のようなものだということを ルイズは不思議な高揚感に駆られ、握り手を左右に動かしたり、二枚の板を交互に踏んだりした その物体の外、生徒達がある者は唖然と、ある者は嘲笑しながら見守る中、コルベールが咳払いをした 夢中になっていたルイズはコントラクト・サーヴァントを終えなくてはならないという義務を思い出す ルイズが落ち着きなく見回すウマ無し馬車の内部、彼女の耳はその中で僅かに発せられた音を感じた 「・・・・・・・・・・・・マ・・・・・・・・・イ・・・・・・ケ・・・・・・・・・ル・・・・・・・・・・」 ルイズは様々な光に溢れる不思議な機械の内部、その中央近くで微かに光った箇所を目ざとく見つけた 今となってはその主であるかの様に座席に身を預けるルイズの前方、嫌でも目に付く喉元あたりの高さ この機械を作った異世界デトロイトに存在する、さる財団に付属した研究機関が意図した通りに その物体の基幹を成す装置は人間に意思を語りかけるのに最も自然な位置に取り付けられていた ルイズには理解できない文字らしき模様を描かれた赤や黄色の光の中心に在る、黒く小さな四角形の平面 ちょうど人間の口ほどの大きさの黒い窓、ルイズがさっき聞いた微かな声は、確かにここから聞こえた ええい、ままよ!と思い、ルイズは前方に並ぶ各色の光に覆い被さり、その黒い平面に唇を合わせた 作動中の装置特有のかすかな温もりは、ルイズに儀式としての口づけを超えた奇妙な感覚を味あわせた ルイズが黒い四角に唇を合わせ数拍の時間が流れた後、その黒いウマ無し馬車全体が眩い光に包まれた ウマ無し馬車は低く平べったい前部を震わせ、後部からこの世界のいかなる獣とも異なる咆哮を発した この機械が作られた異世界での最新技術、その物体の動力源である水素核融合エンジンに火が入った その強烈な重低音は、異世界における旧世代の遺物、ポンティアックV8エンジンのそれに酷似していた 召喚物の周囲に集まって見物してた生徒達や、教師のコルベールさえもがその音に恐れを感じ、後ずさった ただ一人ルイズだけが、その耳を裂かんばかりの強く激しい音に、自分でも理解不能な血の滾りを感じた ルイズの目の前、たった今彼女が唇を触れた黒い四角形の中で光が発生した、小さな光の集合が現れる いくつもの薄紅色の光が生き物のように動き、ルイズのキスに合わせて閉じた唇のような形を描くと それは驚愕する口のように見える形を作り、続いて平静を取り戻そうとするかのように上下動した 声が聞こえた、今度は幽霊のような掠れ声ではなく、不快を感じない音量で室内に響き渡るような声 「私の名はナイト・インダストリー・トゥ・サウザンド・・・・・・『KITT』とお呼びください」 このウマ無し馬車は確かに言葉を発した 聞こえてきたトリスティン公用語には奇妙な抑揚があり、それは高貴ながら都会の瀟洒さを感じさせた この物体が作られた場所で、その音声を司る装置の製作を含めて全体の設計を指揮したある科学者の口調 それはこの物体の生まれた国で「ボストン訛り」と言われる、旧き良き頑固者の鼻持ちならぬ言葉だった ルイズは座席の上で、突然喋りだし奇妙な名乗りを上げた馬車に驚愕したが、持ち前の強気さを発揮する 右手にあるガラスの四角形が、その黒い平面に使い魔の契約を交わした象徴であるルーンを表示している ほら、やっぱりわたしが召喚したコイツは生き物に間違いないわ、言葉も話すし、口はここにある ルイズは言葉を発する黒い窓に表示されている「口」を指で強く押し、再び開こうとするそれを黙らせる このウマ無し馬車とされた物体の中で、一人の若いメイジは彼我の存在とその意義を高らかに宣言した 「KITTとかいうの、あんたは今日からこのルイズ・フランソワーズ・ラ・ヴァリエールの使い魔よ!」 その黒い画面に現れた薄紅色の口は、しばらく「ヘの字」を書いたように停止していたが、やがて動いた 「まるで中世を舞台にした御伽噺のようですね、それが私の存続の為の最善であるならばそうしましょう」 黒い機械は一息つく、少なくともルイズにはそうみえた、そして妙な愛嬌を感じさせる声を発した 「よろしくお願いします・・・・・・ルイズ・フランソワーズ、さん」 「こちらこそ、KITT・・・・・・ルイズでいいわ・・・・・・」 前ページ次ページKNIGHT-ZERO
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前ページ次ページZero ed una bambola ゼロと人形 「アンジェ、痛い。どこに行くのよ?」 アンジェリカはルイズの手を掴んだまま足早に歩く。 「ほら、見て下さい。最初にこの二人を殺したんですよ」 アンジェリカは薄い胸を張っていう。 「こ、ころした・・・?」 「はい! 最初は剣をこの胸に突き刺しました! それでですね、この人はAUGで撃ち殺しました!」 アンジェリカは一人はしゃぎながら、うれしそうに説明をする。 「とても簡単に殺せましたよ、ルイズさん」 アンジェリカは笑みを崩さない。 「それでですね、止めを刺した後はお屋敷の中に入って残りの人を殺したんですよ?」 再びルイズの手を掴み屋敷の中に入っていくアンジェリカ。ルイズは抵抗もせずにアンジェリカについて行く。 屋敷の中、倒れている男がいる。 「アンジェ?あれも・・・」 「そうです。ルイズさん。あいつもやっつけました」 そういうとアンジェリカはルイズを部屋の中に引っ張る。 その光景に思わずルイズは目を背ける。 「あの、どうですか?とっても簡単に殺せました。ほら見て下さい!剣を今日初めて使ったのにこんなに上手に殺せたんですよ?」 頭が痛い、眩暈がしてきた。ルイズは嬉しそうに、何かを期待するかのように瞳を覗き込んでくるアンジェリカから目をそらしてしまった。 「あの、ルイズさん。あっちでも殺したんですよ。まだ終わりじゃありませんから」 アンジェリカはまたルイズの手を引いて歩き出す、ルイズは抵抗もせず、ただついて行くしかなかった。 廊下の先に見える赤黒い水溜り、倒れている人影、今まで人の死をここまで感じたことはあっただろうか。 錆びた臭いが屋敷に充満する。ルイズは顔を青くて立ち尽くす。 「ね、ねぇアンジェ?」 思わず胃の中が逆流してきそうになったが何とか堪える。 「何ですか?」 「アンジェ、聞くけど本当に貴方がやったの?」 「そうですよ。私が全部殺しました」 信じられない、いや信じたくない。目の前にいる少女が、虫一つ殺せないような可憐な少女が目の前に起きている惨状の原因だなんて。 「こ、これもアンジェ。貴方がやったっていうのかしら?」 ルイズはそういって血溜まりに沈むメイドの死体を指差す。 「はいそうですよ。それがどうかしたんですか?」 「どうしたじゃないわよ! 何でこんなことするのよ!」 ルイズがアンジェリカを問い詰めようとしたその時、ガタリと物音がした。 「え? 何、何の音?」 「何でしょうか?あ、あれですね」 アンジェリカはクローゼットに近づくとデルフリンガーを引き抜いた。 「アンジェ、何してるの?」 ルイズの問いに答えず、デルフリンガーをクローゼットに突き立てる。 「な、何かいるのかしら?」 ルイズは恐る恐るクローゼットに近づき、そっと扉を開ける。 「え!?」 驚くしかなかった、クローゼットの中には腹を赤く染めたメイドの少女がいたのだ。 「た、助けて・・・」 何故クローゼットの中にいたのか、疑問は残るがそれよりも助けないと。 「待って、今助けるわ」 「退いてくださいルイズさん!」 「アンジェ?何を・・・」 ルイズはアンジェリカを制止しようとするが間に合わない、煌めく左手の紋章、デルフリンガーを奔らせる。 メイドの胸がバックリと開き、鮮血が舞い散り、ルイズとアンジェリカを紅く染めた。 「ア、アンジェ……」 「ごめんなさいルイズさん。討ち漏らしがありました。でもこれで目撃者もいません」 何を言えばいいのだろうか。叱責、賞賛、それとも罵倒か、言葉が出ない。ただ一ついえるのはアンジェリカは嘘をついてはいない。この惨劇を引き起こしたのは間違いなくアンジェリカだ。 「えっとですね、あともう一箇所。どなたでしたっけ?ここの一番悪い人。その人もちゃんと殺しましたよ?」 「そう……なの。案内してくれない?」 もしアンジェリカがこの惨劇を引き起こしたというのならば主としてその結果を見届けなくてはならない。 ルイズは意識が飛びそうになるが、懸命に堪える。 「はい!」 アンジェリカはルイズの言葉を聞くと嬉しそうに返事をした。 軽い足取りで最後の惨劇の場へ行くアンジェリカ。 重い足取りで最後の惨劇の場へと歩くルイズ。 そして扉は開かれた。 「見て下さいルイズさん!」 「見てるわよ・・・アンジェ」 ルイズはその光景を見つめる。今度は目をそらさない。 「一つ聞きたいことがあるの」 「何でしょうかルイズさん」 「何で・・・どうしてでこんな事したの?」 「だってルイズさんがこうしろって仰ったじゃないですか」 「わたしが?」 ルイズはその時のことを思い出していた。 『じゃあ悪い人なんですね。私やっつけますよ?』 『え?じゃあお願いするわ』 そうだ、確かにそう言っていた。アンジェリカのそれをただの冗談と思って。なのにアンジェリカは本気でそれを言っていたのだ。 ルイズは知らなかった。アンジェリカの恐ろしさを何も知らない。笑って人が殺せる事を、武器も持たない無力な人間を殺せることを。 ベットには貴族らしい男の死体が横たわる。恐らくそれがモット伯だろう。 「ねぇアンジェが怪我をしたシエスタを助けたのよね」 「シエスタちゃん、怪我したのですか?」 おかしい、先ほどから言動がおかしい。一体何なのだこの子は。ルイズは恐怖をアンジェリカに覚える。 「ルイズさん、どうかされましたか?」 アンジェリカが話しかける。思わず身構えてしまう。アンジェリカの凶器の矛先が自分に向けられるのではないか、一抹の不安がよぎる。 「あながち間違いでもないかもな。娘っこ、この小娘はおまえさんを通して誰かを見ているからな」 ルイズの心を見透かしたようにデルフリンガーが呟く。 「ルイズ!一体何があったの!」 ようやくルイズたちに追いついたキュルケとタバサ。屋敷の惨劇と赤く汚れたルイズに驚く。まるで今そこで人を殺したような…そんな汚れ方だ。 「キュルケ? ああ、これね・・・アンジェがやったんですって」 さっきも一人目の前で殺したの、そう呟きペタンとその場に座り込むルイズ。 「冗談……ではないみたいね」 ルイズの様子を見ればそれが冗談ではないとすぐに分かる。虚ろな目、細かく震える体、それらが事実を物語るのだ。 「本当なら危険」 「タバサ、危険って?」 「一応貴族」 それもそうだ。モット伯もあれで一応貴族なのだ。それが殺されたとなると一大事だ。 「どうしてこんなことになったのよ。私どうすればいいの?」 ルイズは泣きたくなった。何が悪かったのか、こんなことになるなんて。ただ普通のメイジとして過ごしたかっただけなのに・・・。 「……燃やしましょう」 キュルケは少し思案した後、そう提案する。 「燃やすって……」 「証拠隠滅?」 「そう、タバサの言う通りよ。この屋敷を死体ごと燃やすの。そうすれば誰が殺したかなんてわからないわ」 「でもそううまくいくの?」 「大丈夫よ。何か聞かれても知らぬ存ぜぬで通せばいいもの」 「食堂にあった油撒いてきた」 「タバサ! 早いわねぇ。じゃあ燃やすわよ」 キュルケは魔法で炎を生み出し、屋敷へと解き放つ。 「じゃあ早く学院に戻るわよ。タバサ?」 「何」 「シルフィードは?」 「今呼ぶ」 タバサが口笛を吹く。きゅいきゅいと鳴きながらシルフィードが飛んでくる。少女たちはその背中に飛び乗った。 激しく燃え盛る炎、全てを焼き尽くし、空を赤く照らす。学院への帰路に少女たちは何を思うのか。それぞれの思いを胸に眠りに就く。 幾つもの命の炎が消えた夜。星空はいつも変わらぬ、ただ静かに月が昇り、沈み往く。世界は何一つ変わらない。 翌日アンジェリカが目を覚まさなかった。彼女が目を覚ますのは事件から4日が過ぎてからだった。 Episodio 14 Un cielo serale e che brucia, il cielo stellato che non cambia 燃える夜空、変わらぬ星空 前ページ次ページZero ed una bambola ゼロと人形
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前ページ次ページベルセルク・ゼロ 部屋に入ってきたアンリエッタは感激に身を震わせ、ルイズの体をぎゅっと抱きしめた。 「あぁ! ルイズ!! ルイズ・フランソワーズ!! 懐かしいわ! 本当に久しぶり!!」 「ひ、姫殿下ッ!? いけません、こんな下賎な所にお一人で参られるなど…!」 「ルイズ・フランソワーズ! そんな他人行儀な口の利き方はやめてちょうだい! わたくしたちは友達でしょう!?」 ルイズの言葉にアンリエッタはいやいやと首を振る。ルイズはひとつため息をついてからはにかみ、幾分くだけた口調でアンリエッタと語り始めた。 そんな二人の様子をガッツとパックは呆気に取られた様子で見つめていた。昼間、学院を粛々と訪問した姫と同一人物とは思えない。どうやらこの姫殿下、昼間の態度は余所行きで、こちらが地のようだった。 (姫……ね) ルイズと手を取り合ってはしゃぐアンリエッタの様子に、ガッツはかつてその身をよせていたミッドランド王国の王女、シャルロットを思い出していた。彼女もまた、自らの手で当時反逆者として追われていた自分たちを城内に招き入れるなど、相当に活発な面を見せていた。 やはり一国の王女ともなるとそのバイタリティは並ではないらしい。 すっかり打ち解けた様子の二人は幼少の頃の思い出話に花を咲かせている。 二人の会話からすると、ルイズはともかく、アンリエッタも幼少の頃は相当なお転婆であるらしかった。 曰く、ルイズは幼少の頃アンリエッタの髪の毛を引きずりまわして泣かせたらしい。 曰く、アンリエッタはルイズとドレスを奪い合い、拳でこれを勝ち取った。 貴族の、それも王族である者にあるまじき下品な行為のように思われるが、ルイズとアンリエッタは懐かしげに、ともすれば誇らしげにそれらの思い出を語り合う。 「あぁ本当に懐かしい。懐かしくて涙まで出てきてしまったわ。あの頃は本当に自由で、毎日が楽しかった……出来るなら、いつまでも子供のままでいたかったわ」 目尻に浮かんだ涙をそっと拭って、アンリエッタは呟いた。その響きにはどこか悲しみが混じっている。 「どうしてこの世には時間を戻す魔法がないのかしらね……」 「姫様……」 「結婚するの、わたくし」 あまりにも悲しげな微笑み。無理やりに作られた笑顔をアンリエッタは浮かべていた。 おそらくは望まぬ結婚なのだろう。彼女はトリステイン王国の第一皇女だ。その事情は容易に伺い知れた。 「おめでとう……ございます」 それでも、ルイズはそう言うしかなかった。他に言うべき言葉が見つからなかったから。 「愛するものと結ばれるのが女の幸せよ。あなたも色々大変でしょうけど、頑張ってね。わたくし、応援しちゃうわ」 「はい?」 突然のアンリエッタの言葉にルイズは目を丸くする。 「後ろの逞しい彼、恋人なのでしょう?」 アンリエッタはいたずらっぽく微笑んだ。 ルイズの顔は一気に赤くなった。 「ち、ちが、ちがいます!! 姫様、あれは私の使い魔です! こ、恋人とか、そんな、そんなんじゃないですよ!! 何言ってるんですか!!」 「使い魔? 使い魔はそこのかわいい妖精さんではないのですか?」 アンリエッタの細い指がパックを指差す。パックは心外な! と頬を膨らませた。 「あやや、あれも使い魔です! どっちも忠実なる私の僕に過ぎませんわ!!」 「使い魔を二種、しかも片方は人間……? すごいわねルイズ。王宮に仕えるスクウェアメイジにもそんな人はいないわ。あなたは昔からどこか変わっていたけれど、相変わらずなのね」 アンリエッタは感心した様子でガッツとパックを交互に見回した。 ルイズはアンリエッタに褒められて、得意気に慎ましい胸を張る。 「黙って聞いてればこの小娘いけしゃあしゃあとぬかしおって!! エルフ次元流の錆びにしてくれる!!」 「ええ~い! 姫様の御前なのよ!? 控えなさい栗頭!!」 パックがぶんぶんと振り回す毬栗をルイズは杖で受け流す。そんな二人の様子にアンリエッタは口を押さえてくつくつと笑った。 しかし、少しするとやはりその表情に影が落ち、アンリエッタは再びため息をついた。 「……どうなさったのですか? 姫様」 「…いえ、いいえ。何でもありません。あなたに話せるようなことじゃないの。忘れてちょうだい」 「姫様……」 ルイズはアンリエッタの両手を包み込むように握りしめた。 「私たち、お友達でしょう?」 ルイズがそう言うと、アンリエッタは嬉しそうに微笑んだ。 「わたくしをお友達と呼んでくれるのね、ルイズ。とても嬉しいわ……」 アンリエッタは俯き、やがて決心したように語り始めた。 アルビオンの貴族が反乱を起こし、今にも王室が倒れそうなこと。 反乱軍はアルビオンの次にこのトリステインに侵攻してくるであろうということ。 それに対抗するために、トリステインは帝政ゲルマニアと同盟を結ぶことになったこと。 そしてそのために―――自身がゲルマニア皇帝に嫁ぐことになったこと。 「ゲルマニアですって!? あんな成り上がりの野蛮な国に!!」 「いいのよルイズ。好きな相手と結婚するなんて、物心ついたときからあきらめているわ」 アンリエッタを本当に悩ましているのはそこではない。本題はここからだった。 当然、アルビオンの反乱軍はトリステインとゲルマニアの同盟を望まない。二国間の同盟を出来る限り妨害してくるのは目に見えている。 「反乱軍はわたくしと皇帝の婚姻の妨げになるものを血眼になって探しています」 「妨げになるもの……そんなものが?」 俯き、唇を噛むアンリエッタの様子を見れば容易に想像がつく。 ―――あるのだ。 「おお…始祖ブリミルよ。この不幸な姫をお救いください……」 話し終えたアンリエッタは顔を両手で覆うと床に崩れ落ちた。パックはぎょっとしてそんな姫を見つめる。あまりにも大げさすぎやしないだろうか。 「姫様! 教えて! 婚姻を妨げるものって、一体何なのですか!?」 ルイズもアンリエッタに引っ張られたのだろうか、興奮した様子で捲くし立てる。アンリエッタは苦しそうに呟いた。 「それは……手紙なのです」 「「手紙?」」 ルイズとパックの声が重なる。アンリエッタは続けた。 「ええ。その手紙が反乱軍の貴族に渡ったら、彼らは喜び勇んでゲルマニア皇帝に届けるでしょう。そうなればきっと同盟は反故…! あぁ…トリステインはただ一国で反乱軍に立ち向かわなければならなくなってしまうのです!!」 ルイズはごくりと唾を飲む。パックはがじりとスルメを齧った。完全に観客気分だ。 「一体その手紙はどこにあるのですか!? トリステインに危機をもたらす、その手紙は!!」 「手紙は、アルビオンで戦いを繰り広げているウェールズ皇太子の元に……!」 ガッツの眉がピクリと上がる。ルイズは大げさに両腕を開いて言った。 「プリンス・オブ・ウェールズ? あの凛々しき王子様が?」 アンリエッタはのけぞると、ベッドに体を横たえた。 「ウェールズ皇太子は遅かれ早かれ反乱軍に捕らえられてしまうでしょう…! そうすれば、あの手紙が明るみに出るのも時間の問題!! そうなったらもう、トリステインは……!! 負けることはなくとも、大きな犠牲を払うことになってしまう!!」 ルイズの顔が蒼白になった。口の中はからからに乾いてしまっている。潤すように、またごくりと唾を飲む。 ルイズの胸にはひとつの決意があった。 「姫様、私が……」 「駄目、駄目よルイズ! わたくしがやはりどうかしていたのだわ!! こんなことをあなたに話してもどうにもなりはしないのに!! 忘れてちょうだいルイズ・フランソワーズ!」 「何をおっしゃいますか姫様!! 『土くれ』のフーケを捕まえた私たちの力をお信じください!! それに、姫様のためならば例え地獄の炎の中だろうが、竜のアギトの中だろうが―――!!」 ルイズは強い瞳でアンリエッタを見据え、自身の胸に右手を当てた。 「このヴァリエール公爵家の三女、ルイズ・フランソワーズ! 飛び込む『覚悟』は出来ておりますわ!!」 ドォ~~~ン! パックが太鼓を打ち鳴らし、ルイズの宣誓に花を添える。 アンリエッタは感激でぽろぽろ涙を流し始めた。 「ああ、私はまことに良い友人を持ちました。ルイズ、あなたの友情と忠誠に感謝いたします!!」 「お任せください姫様! この任務、必ずやり遂げてみせます!!」 ルイズとアンリエッタは固い握手を交わした。パックはうんうんと頷き、二人に拍手を贈る。 「アルビオンに赴きウェールズ皇太子を探して、手紙を取り戻してくればいいのですね?」 「ええ、その通りです。『土くれ』のフーケを捕らえたあなた達なら、きっとこの困難な任務をやり遂げてくれると信じています」 ルイズとアンリエッタは細かな打ち合わせを始めた。短い打ち合わせではあったが、その中で明日の朝早速出発することを決める。 それからアンリエッタは壁に背を預け、じっと目を閉じていたガッツに目をむけた。アンリエッタはそのままガッツの方へ歩み寄る。 「頼もしい使い魔さん。これからもわたくしの大事な友達をよろしくお願いしますね」 そう言って、ガッツにその左手を差し出した。アンリエッタはガッツがその手に口をつけることを許したのだ。 皇女にその手を許される。トリステインに住まう者にとって、それは大変に光栄なことだといえる。 だが、ガッツはまったくその場を動こうとしなかった。それどころか、目を開けるそぶりさえ見せない。 アンリエッタはちょっと戸惑いながらガッツが目を開けるのを待っている。 「ちょっとガッツ!! 失礼でしょう!! 姫様がお手をお許しになられているのよ!!」 あまりに無礼なガッツの態度にルイズは肩をいからせた。そこに至ってようやくガッツは目を開ける。 アンリエッタは安心したように息をひとつつくと、再びその手を差し出した。 ガッツの背が壁から離れ―――ガッツはそのままアンリエッタの傍を通り過ぎた。 アンリエッタはぽかんとしてガッツの背中を見送る。 使い魔の不手際は主人の不手際である。ルイズの顔が見る見るうちに紅潮した。 「ガッツ!! 無礼にも程があるわよアンタ!! 姫様を無視するなんて、何て態度なの!?」 つかつかと部屋のドアに歩み寄るガッツのマントを掴み、ルイズは怒鳴る。 ガッツはぴたりと足を止め、ルイズの方を振り返った。 ルイズとガッツの視線が交錯する。 ガッツが口を開いた。 「お前……何か勘違いしてるんじゃねえか?」 心臓を、鷲掴みにされたような気がした。 「え…?」 咄嗟に言葉が出てこない。 ガッツの冷たい視線に晒され、背中に汗が噴出すのがわかった。 ガッツはルイズから視線を切ると、ドアノブに手をかける。 勘違い? 何よ、何を勘違いしてるっていうのよ。ほら見なさいよ。姫様が呆然としてらっしゃるじゃない。ちょっと、待ちなさいよ。 ―――待ってよ。 その全ては言葉にならず、ガッツはノブを回し、ドアを開いた。 「うわ、わわわ!!」 当然開いたドアに廊下で飛び上がる影がある。 ギーシュ・ド・グラモンがそこにいた。 ガッツはギーシュを一瞥すると、そのまま廊下の奥へと消えていった。 ギーシュは部屋の中にアンリエッタの姿を発見すると、一瞬でその前まで駆け寄り、跪いた。 「姫殿下!! その任務、どうかこのギーシュ・ド・グラモンにお任せください!!」 「ギーシュ!! アンタ盗み聞きしてたの!?」 「失敬な!! たまたま姫殿下の見目麗しい姿を見かけて、ちょっと後をつけて、ドアに耳をつけてたら聞こえてきただけだ!!」 「思いっ切り盗み聞きじゃないの!!」 ルイズの平手打ちがギーシュの頬に飛ぶ。パチーンといい音がしてギーシュはもんどりうって倒れこんだ。 「あなた、もしかしてグラモン元帥の?」 倒れたギーシュの顔を覗き込んで、アンリエッタはギーシュに尋ねた。 ギーシュは慌てて立ち上がり、恭しく一礼した。しかしその頬には綺麗にルイズの手のあとが残っているので締まらない。 「あなたも、わたくしの力になってくれるというの?」 「はい! 姫殿下のためならば、この命さえも石ころのように投げ捨てる覚悟であります!!」 アンリエッタの顔を真っ直ぐ見ることが出来ず、少し上を向いたまま叫ぶギーシュに、アンリエッタはにっこりと微笑んだ。 「ありがとう。お父様に似て、あなたも勇敢でいらっしゃるのね。ではお願いします。どうかこの不幸な姫をお助けください、ギーシュさん」 「姫殿下が! 僕の名前を呼んでくだされた!!」 ギーシュは喜びのあまり後ろにのけぞって失神した。その際、床で思いっきり後頭部を強打した。しばらくは目覚めそうもない。 にやけた顔のままで失神するギーシュを廊下に放り出したルイズは、その間にアンリエッタがウェールズにしたためた手紙を受け取った。 「これをウェールズ皇太子に渡せば、件の手紙をすぐに渡してくれるはずです」 ルイズは頷くとアンリエッタの手からその手紙を受け取った。 アンリエッタはチラリとルイズに心配そうな目を向ける。 「ルイズ…大丈夫ですか? ガッツさん…とおっしゃった、あの方は……」 「大丈夫です、姫様。姫様は何も心配なさらないでください。いざとなればあんな奴の力を借りずとも、私だけでやり遂げて見せます」 「そうですか……」 アンリエッタは右手の薬指から指輪を引き抜くとルイズに手渡した。 「ではせめてこれを……母君から頂いた『水のルビー』です。お守りにしてください。路銀が必要なら、これを売り払って充てても構いません」 ルイズは恭しくそれを受け取り、アンリエッタに深く一礼した。 「この任務にはトリステインの未来がかかっています。母君の指輪が、アルビオンに吹く猛き風からあなたたちをお守りくださいますように」 月明かりの下でガッツは井戸から汲み上げた水を浴びていた。剣を振って体に染み付いた汗を洗い流す。 さくっ、と草を踏む音が聞こえる。振り返ると、ルイズが立っていた。 「明日は朝早く出発するわよ。今夜は早めに眠りなさい」 ルイズは毅然とした様子でガッツに言葉を放つ。そんなルイズの声なぞどこ吹く風とばかりにガッツは再び井戸から汲み上げた水を頭から浴びた。 ルイズもそんなガッツをじっと見据えている。使い魔の主人として、ここで引く訳にはいかなかった。 「行かねえぞ、俺は」 短く、一言。 ルイズは反発する。 「だめよ! アンタは私の使い魔なんだから!! 私の命令には絶対服従なのよ!? 言ったでしょ!?」 強く、強く言い放つ。しかしその言葉とは裏腹に、ルイズの足は震えていた。 「俺も言ったはずだ」 ルイズの部屋から持ち出したタオルで髪を拭く。そのタオルをそのまま首にかけ、ガッツは言葉を続けた。 「お前が俺を元の世界に帰す方法を探している限り、使い魔をやってやる、ってな」 どくん、と心臓が音を立てた。 そうだ。ガッツは確かに言っていた。ギーシュとの決闘があったあの夜に。 「お姫様の機嫌をとりたきゃ勝手にすりゃいい。だが、俺がそれに付き合う義理はねえ」 確かにガッツの言うとおりだ。トリステインの危機を救うために戦地に赴く。これは明らかに『ガッツには関わりがない』。 でも、フーケの時は? あの時、私を励まし、力を貸してくれたのは? ルイズは知らない。あの時ガッツが力を貸した動機は、あくまでオスマンとの取引によるものだということを。 ―――――お前、何か勘違いしてるんじゃねえか? 理解した。 あぁ、なんて無様な勘違い。 呆れるほど滑稽な。 恥ずかしくて、悔しくて。 それより、もっとたくさん、悲しくて。 「……えぇ、勝手にするわよ!!!!」 既にその両足は毅然と立ち続けることなど出来なくて。 ルイズは踵を返し、走り去った。 部屋に駆け戻り、ドアを乱暴に閉める。 汗をかいたせいで、ブラウスがべっとりと肌に張り付いている。 「最…悪……お風呂入ったのに………」 呟きながら、ボタンを外す。ブラウスを乱暴に脱ぎ捨てると、新しい寝巻きに着替えるためにタンスを開けた。 綺麗にラッピングされた包みが目に入り、ルイズの手が止まる。 「ふふ……」 馬鹿馬鹿しくて、笑いすらこみ上げてくる。 ルイズはゆっくりとその包みを手に取ると、窓からそれを放り投げた。 どこに落ちていくかなんて見届けない。 ルイズはすぐに窓を閉じて着替えを済ますと、ベッドに飛び込んだ。 「明日は早いから、寝ちゃわないと………」 誰にともなく呟いて、目を閉じる。 ―――閉じた目の隙間から、涙がぽろりと零れ落ちた。 前ページ次ページベルセルク・ゼロ
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前ページ次ページ虚無の魔術師と黒蟻の使い魔 ぴしゃり。乾いた音が響き渡る。 そのあとに続くのは喧しい金切り声。さらにそのあとを狼狽した男の声が続く。 「喧しいわね」 キュルケは不機嫌そうにそれらの音のするほうに目を向ける。 そこには目に涙を浮かべながら走り去るモンモランシー、それを呆然と見送るギーシュがいた。 「痴話喧嘩」 タバサが短く言い放つ。 「全くくだらないわねぇ」 やれやれといった調子でギーシュに向けた視線をタバサのほうに向けるキュルケ。 喧しいとは思ったが、モンモランシーが走り去ったのなら痴話喧嘩は終了だろう。これ以上騒がしくなることはない。 そう思ったキュルケだったが、その考えはすぐに覆される。 「君のせいで2人のレディーの名誉に傷がついた! どうしてくれるんだ!」 それはギーシュの怒鳴り声だった。 何事かと振り返ると、そこには土下座せんばかりの勢いで謝るメイドと、それに向かって罵声を浴びせるギーシュの姿があった。 どうやらギーシュが先ほどの失態の責任をメイドに押し付けて憂さ晴らしをしているらしい。 周りの喧騒に耳を傾けることで容易にその経緯が知れる。 ことの始まりはモンモランシーからプレゼントされた香水をギーシュが落とし、それをあのメイドが拾って届けたことらしい。 そして、それを見たギーシュと付き合っている1年生がモンモランシーとの関係をギーシュに問いただし、ギーシュはモンモランシーとはそういう関係じゃないと答え、モンモランシーはそういう関係じゃなかったのかと怒った。 そして今に至るということらしい。 馬鹿馬鹿しい。 メイドに当たり散らす暇があるのなら、どちらか片方、より大切な方を追いかければいい。そうすれば少なくとも片方の愛は失わずに済むかもしれないのに。 これだからトリステインの男は駄目なのだ。 メイドに責任を負わせることで体面を保とうというギーシュの行動。 それはすなわち、追いかければ片方だけでも取り戻すことができたかもしれない愛より、体面を選んだということだ。 愛と天秤にかけるなら、せめて体面ではなく誇りや名誉にしてほしいものだ。 キュルケにとっては、誇りと名誉を足した上で愛と天秤にかけても、なお愛が勝つ。 この世に燃えがる愛の情熱より勝るものがあろうはずもない。 だが、トリステインの貴族は愛より誇りや名誉を選ぶものが圧倒的に多い。 母国のゲルマニアでも流石にキュルケほどの者は少ないが、それでもトリステインの貴族よりは愛に重きを置く。 おかげでキュルケはトリステインに留学してから恋人の数が半分に減ってしまった。自分が情熱を傾けるに値する男が少なすぎる。 しかもギーシュはしきりに誇りや名誉といった言葉でメイドを責めるが、そんなものは公衆の面前で2人いっぺんに振られた時点でありはしない。ギーシュが必死に守ろうとしているのは体面だ。 誇りどころか体面に負ける薄っぺらな愛。そんなものを二股かけてさらに薄めたら、そこに何が残るというのだ。 そういうことは、自分のように幾ら分けても薄まらない、熱く濃い情熱を持ってからするものだ。 「そもそもばれるのが嫌ならこんな狭いとこで二股なんてするなって話よね」 キュルケが呆れたように言うと、 「人のことは言えない」 タバサが、親友のキュルケでなければ判らないぐらい微かに呆れた表情をして言う。 「あらタバサ。私の言ったことちゃんと聞いてなかったの? 『ばれるのが嫌なら』って言ったじゃない」 キュルケがしたり顔でそれに返す。 タバサは小さくため息をつくと視線を本に移す。 彼女にはキュルケの恋愛観も、ギーシュの騒動も興味はない。 「あら?」 急にキュルケが頓狂な声を出す。 「あのメイド……」 ギーシュに平謝りしているメイド、どこか見覚えがある。 「あのメイドはルイズの……」 特徴的な黒髪で気づいた。 最近ルイズが何かと声をかけるメイドに間違いない。 それに気づいたキュルケは立ち上がって辺りを見渡す。 すぐに見つかった。 肩を怒らせたルイズがギーシュのほうに近づいていく。 「何やってんのよ! ギーシュ!」 ルイズが怒鳴る。 その声にギーシュや、その取り巻きたちがきょとんとした顔をする。 何故ここでルイズが出てくるのか、彼らの頭の中でまるでつながらない。 「ミ、ミス・ヴァリエール……」 シエスタが今にも泣き出しそうな声でルイズの名を呼ぶ。 その震えた声はルイズの頭に黒い靄をかける。 「このメイドが二人のレディーの誇りを傷つけた。君とて貴族のはしくれなら、貴族の誇りを傷つけることがどういうことか解るだろう」 ギーシュは言う。 解らない。 貴族の誇り。それがどれだけ大切なものなのか。「解るだろう」と言われて解らなくなった。 貴族とは。 貴族とは誇りを重んじ、それを守るだけの力をもつ者だと、そう結論したはずなのに。 その誇りの名のもとに、シエスタは今にも泣きそうな顔をしている。いや、もう泣いている。 ルイズも、ここに来るまでに周りの声から事の経緯は大体理解している。 ギーシュの言う誇りが口だけのもので、そもそもギーシュの行いが貴族の誇りから遠いところにあるということも理解している。 しかしそういうことではないのだ。 もし、本当に貴族の誇りがかかっていた場合は、シエスタはこんな顔をしなくてはいけないのか? 平民はこんな顔をしなくてはいけないのか? レナスは……。 そして、自分自身が貴族足らんと生きるならば、誇りのためにシエスタやレナスにこんな顔をさせるのか。 私はそんなことがしたいのか。 私がなりたかった貴族とはそんなものなのか。 私は平民に哀れみの目を向けられるのが耐えられなかった。でも、平民に恐れられたいわけではない。平民に憎まれたいわけではない。平民に嫌われたいわけではない。 以前のルイズなら貴族の誇りと平民など、天秤にかけるまでもないものであった。 貴族の誇りは何よりも尊いものだった。 しかし、それは貴族の、力の強いものの都合でしかない。 モッカニア、そしてレナスの生涯を『本』を通して我が事のように見た今のルイズに、強き者の都合だけで考えることはできない。 誇り高く、高潔な思想のもとでなら弱きものが踏みにじられてよいなどという考えを肯んずることはできない。 モッカニアの母、レナスの悲しそうな顔がルイズの脳裏に浮かぶ。 「踏んでは、いけないわ」 レナスの声が頭に響く。 (ああ、そうか。そんなことか) (馬鹿だな。こんな当たり前のことも解らないなんて) 「とにかく。ルイズ、君には関係ないことだ。退きたまえ。彼女たちの誇りのために、僕はこのメイドに貴族の誇りというものを教育してやらなくてはならないからな」 ギーシュがルイズにここから退くように促す。 ルイズはギーシュ方に顔を向けた。 その顔を見てギーシュは驚く。 ルイズは笑っていた。それも晴れやかに。 どういう理由で笑っているのか、ギーシュには理解できない。先ほどの己の言葉のどこにルイズがこんな顔をする要素があったのか。 そもそも、なぜルイズがしゃしゃり出てきたのかも解らない。 解らないものは、不気味だ。 ルイズの笑みはギーシュの言葉とはまるで関係ない。 ただルイズは理解したのだ。 自分が求める貴族像というものを。 「関係ないことはないわ」 ルイズは顔に笑みを浮かべたまま言い放つ。 「だってシエスタに香水を拾うように指示したのは私だもの」 少しまずいことになった。 ルイズの言葉を聞いたギーシュは、心の中で舌打ちをする。 一連の出来事の非が己にあることはギーシュも自覚している。 だが、相手が平民であるなら非がどこにあるかなど関係なしに相手をなじることができたのだ。 それが貴族が相手ではそうはいかない。況してやヴァリエールが相手では。 普段の、魔法の使えないルイズをからかうのとはわけが違う。 不当な理由で相手を叱責する。叱責したなら決着はどちらかが非を認め頭を下げる必要がある。 それは駄目だ。 そうしたら、それこそ本当に貴族の誇りにかかわる問題になる。 (まったく少しは空気を読んでくれよ。そんなところまでゼロなのか) 心の中でルイズをなじるギーシュ。 とりあえず、公衆の面前で二人からふられたという恥をメイドに責任を押し付けて有耶無耶にさえできればいいのだ。 (二人に振られたのも僕なら、恥をかいたのも僕。他に誰が損をしたというわけでもないんだ) ギーシュにはシエスタがどんな顔をしているかなど見えてはいない。 (なのにどうして首を突っ込んでややこしい事にしようとするんだ!) 「それで私にも貴族の誇りについて教育してくれるのかしら」 ルイズは背筋を伸ばしギーシュを真直ぐに見据えて言う。その顔には相変わらずの笑みが浮かんでいる。 ギーシュにはルイズのその自信たっぷりのその態度が嫌がらせに思える。 つい今しがたまで平民にしていたことを、この私にもやってみろ。やれるものならな。 そんな声が聞こえてくるようだ。 悔しい。このまま黙っているわけにはいかない。 「う、あ」 「でも教育はいらないわ」 ギーシュが何でもいいから言わなくてはと思い、口を開けて出てきたのは言葉にもなっていない呻きだったが、それすらもルイズの言葉に被されてかき消される。 (くそう。こんなことで日ごろの鬱憤を晴らそうとでもいうのか……) ルイズはギーシュから視線を外すと、シエスタに目を向ける。 「立って、シエスタ」 シエスタは状況についていけず、涙を流しながらも呆けた顔で地べたに座り込んだままだ。 そんなシエスタを見て、ルイズは片手をシエスタに差し出した。 シエスタにはその手が何を意味しているのか、理解できなかった。ただ、反射的に差し出された手を握った。 シエスタが手を握ると、ルイズはその手を引っ張りシエスタを立ち上がらせる。 ルイズに手を引かれて、やっとシエスタは理解した。ルイズは自分を助けようとしているのだと。 つい今しがたまで流れていた涙とは別の涙が頬を伝うのを感じる。 用心しろとマルトーには言われた。用心というほどではないが、とにかく機嫌を損ねないように気を使いながらルイズとは接していた。 そして、ギーシュの叱責を受けている間、ここ数日声をかけてくるルイズが助けに来てくれるなどとは露ほどに思っていなかった。 しかしルイズは手を差し伸べてくれた。 ルイズはシエスタにハンカチを渡すと、再びギーシュに視線を向ける。 「それじゃあね、ギーシュ」 そう言うとルイズはシエスタを促して、その場を立ち去ろうとする。 それを見たギーシュの頭の中が真っ白になる。 散々場をかき乱しておいて、あっさりとこの場を離れようとするルイズ。 普段、ゼロとからかわれているその仕返しをしようというのだと思っていた。それがあっさりと退散しようというのだ。仕返しをする絶好のチャンスだというのに。 つまりこれは仕返しでもなんでもない。ただ、軽くからかってみたとということなのか? そんな思いがギーシュの頭を駆け巡り、ルイズの背中を見送ることを許さなかった。 「待て!」 ルイズとシエスタが振り返る。 シエスタが怯えた目をギーシュに向けているのとは対照的に、ルイズの視線は自信に満ち溢れている。 「教育の途中だ! そのメイドは置いていけ!」 破れかぶれにギーシュは叫ぶ。 それをルイズは自信満々の笑みで迎え撃つ。 「置いていけって、教育するのはやっぱりシエスタだけなの? シエスタは私の言われた通りにしただけじゃない?」 ルイズが言う。 「関係な……」 「それに教育は必要ないって言ったじゃない」 ギーシュの言葉にルイズは重ねて言う。 そしてルイズはシエスタに向けて口を開く。 「シエスタ。ギーシュの言うとおり私たちは貴族の誇りを傷つけてしまったの。これは大変なことだわ。それで、私たちが何をするべきかあなたは解る?」 ルイズの突然の問いにシエスタはどう答えたものか口ごもる。 それを見たルイズは少し微笑むと答えを言う。 「もちろんギーシュに貴族の誇りについて教えてもらう……なんてことじゃないわよ。誇りを傷つけてしまったならそれを謝らないといけないわ」 ちらり。 ルイズはギーシュを見る。 「ギーシュが言ってた通り『二人のレディー』の誇りに私たちは傷をつけてしまったものね。早く謝らなくちゃ。ギーシュの説教なんて聞いてる暇はないわ。そういうことで急いでるから、あなたの相手はしてあげられないわ。御機嫌よう、ギーシュ」 そう捨て台詞を残し、再びルイズはギーシュに背を向ける。 しかしその背中にすぐに声がかけられる。 「まっ、待て! ならば僕の誇りはどうなる!」 ギーシュは必死だ。 公衆の面前で二股がばれ、ふられ、恥をかいた。それを誤魔化すために平民をなじったがその平民に途中で逃げられ、果ては普段ゼロと馬鹿にしているルイズにやり込められる。 このままで済ませるわけにはいかない。 ルイズが振り返る。 だがそこにあったのは今までの笑みとは違う。 ギーシュに隠すことなく軽蔑の視線を送っていた。 「ギーシュ。あんたが言ったのよ。『二人のレディーの誇り』のためって。なら、その二人に謝るのが先決じゃない。それなのにそれを引き止めて『僕の誇り』ですって? なによ、『二人のレディーの誇り』なんてどうでも良かったんじゃない。最初っから『僕の誇り』って言っときなさいよ。 『みんなの前で二股がばれて恥ずかしかったじゃないか。どうしてくれるんだ』って言えばいいのに。それを言うのも恥ずかしいから『二人のレディーの誇り』を引き合いに出して平民いびりでストレス発散? そっちのほうがよっぽど誇りを踏みにじってるわ。とんだ口だけ野郎ね!」 ルイズは一気にまくし立てた。 あたりがしんと静まる。周りの生徒たちが絶句している。 それは普段知るルイズの怒りとは違った。普段のルイズの怒りは、感情丸出しで喚き散らすだけだ。 普段のルイズと何が違ってこうなっているのか、周囲のものにはまるで解らない。 何が違うのか。それは普段のルイズは自分自身のために怒っているが、今日は違う。 そんないつもと違うルイズに驚いた。彼らの絶句にはそういう意味もあるが、それだけではない。 ここはもうほとんど限界のラインだ。それゆえの絶句。 ここからさらに踏み込んだらもうただでは済まない。 どちらかがここで退かなければ、せめて形だけでも穏便に済ますということもできない。 そして、ここで退くことができるような者が貴族の中にどれだけいるのだろうか。 「口だけだと? それは魔法も使えないくせにご大層なことを言う君のことじゃないのか? ゼロのルイズ」 ギーシュは退かなかった。だが踏み込みもしない。かわした。かわして別の角度から一撃を入れる。 普段とは違う怒りを表すルイズに、普段通りのやり方で攻める。 「…………」 ルイズは口から出かけた言葉を飲み込む。 (魔法は使える。系統魔法ではないけれど。もうゼロではない! だからそんな言葉は無視!) 今はゼロなんて言われて怒るわけにはいかない。 今は自分のために怒ってるのではないのだ。 「あんたの誇りはあんたが勝手にどっかに捨ててきたんでしょ。二股かけて、ふられて、何も悪くないシエスタにあたって……。全部あんたが勝手にやっただけじゃない。そんなの知ったことじゃないわ。 でも、モンモランシーとその1年の娘には責任を感じるわ。私がシエスタに香水を拾うように言ったせいで、あんたみたいな誇りをどっかに捨ててきたようなのを好きだったなんて事がみんなに知られちゃったんだもの!」 ルイズは踏み込んだ。 「決闘だ!」 ギーシュが叫ぶ。 周りがざわつく。 「よせギーシュ! 決闘は禁止されている! それに相手はヴァリ……」 「知ったことか! ここまで虚仮にされて我慢なるか!」 マリコルヌの制止をギーシュは振り切る。 ギーシュは完全に冷静さを失ってしまった。 そもそもはじめから意味が解らなかったのだ。 なぜルイズがしゃしゃり出てきたのか。メイドに指示をしたのが自分だったから? それがどうした。別にルイズに当り散らしたわけではないじゃないか。メイドを適当に叱りつけてそれで終わればいいだけの話だったのに。 (それを仕返しだか嫌がらせだかなんだか知らないが性質の悪い絡みかたしてきやがって!) ギーシュはいまだ理解していない。 ルイズがそのメイドのために怒っているのだということを。 「ヴェストリの広場に来い! 逃げるなよ!」 ギーシュはそう言うと大股でその場から去っていった。 マリコルヌ達、ギーシュの友人連中はルイズの様子を伺いながらもギーシュの後を追う。 「ミス・ヴァリエール! 決闘だなんて……大丈夫なんですか!?」 シエスタが心配そうな顔で言う。 駄目に決まっている。 冷静さを失っていたのはギーシュだけではない。 ギーシュが視界から消えて出てきた心中の冷静なルイズが、「なんで決闘沙汰にまでことを荒げたのだ」とルイズ自身を叱責する。 しかしもう遅い。 ならば闘って、そして勝つだけだ。 「ちょっとルイズ。あんたどうするつもり?」 シエスタとルイズのもとにキュルケが近づいてくる。 「なかなか見事に啖呵切ったけど、決闘なんかしてゼロのあんたが勝てると思ってるの?」 キュルケの言葉にシエスタが反応する。不安げな視線をルイズに向ける。 「大丈夫よ……。大丈夫だから、シエスタ。お願いだからそんな不安そうな目で見ないで」 不安げな視線。それはすなわちルイズが負けるだろうと思っているのだ。 シエスタはルイズのことを心配しているのだ。 平民に心配される。それでは昔と変わらない。 「私は勝つから、心配はいらないわ……。だからシエスタは私のことを信じていて頂戴」 そう言うとルイズはギーシュの去っていった方向、ヴェストリの広場のほうへ向けて歩き出す。 シエスタもその後ろを恐る恐る付いていく。 「ちょっと、ルイズ! あんた魔法も使えないのにどうやって勝つつもりなのよ!」 キュルケがルイズの背中に言う。 ルイズは振り返るとキュルケを一瞥し、何も言わずにまた歩き出した。 「あーもう! 最近のあの娘は意味が分かんないわ! 魔法も使えないのに、気合いとか根性だけでなんとかなるとでも思ってるのかしら? ねぇ、タバサ」 自分の忠告を聞きもせずに決闘に向かうルイズへの不満を傍らにいるタバサにぶつけるキュルケ。 タバサはその言葉に、面倒そうに本から視線をはなし、キュルケを見る。 「彼我の実力差が明白な時……」 パタリと本を閉じるとタバサは立ち上がる。 そしてギーシュとルイズが向かった方向、ヴェストリの広場の方向へ歩き出した。 「往々にして、実力差を覆すのは気合と根性。もしくはそれに類する精神力」 そう言うタバサの後ろ姿をキュルケはあわてて追いかける。 「え、タバサ。見に行くの? あなたが?」 キュルケは驚いた顔をしながらタバサの横に並ぶ。 普段、何事にも興味を持たないタバサが、自分から決闘を見に行くとは思っていなかった。 何がタバサの琴線に触れたのか、キュルケは疑問に思う。 タバサもルイズが勝てるとは思っていない。 魔法が使えるのと使えないのとでは絶望的な戦力差がそこにある。 だからこそタバサは興味を持った。 ルイズの態度。「勝つ」という言葉が何か根拠があっての言葉なのかどうかは解らない。実力差を覆すのは精神力とは言ったが、そんなもので覆せる差など高が知れている。ルイズはどれだけの差を覆せるのか。そこに興味をひかれた。 ルイズは只管まっすぐに正面を見ながら歩く。 すぐ後ろをシエスタが追い、少し距離を置いて野次馬たちがぞろぞろと付いてくるが、そちらには一瞥もくれない。 できる限り堂々とした態度で歩く。 (うん。言い過ぎたわ。ホントは全然言い足りないけど。でも決闘だなんて……) ルイズは思う。 (なんか普段よりちょっとスムーズに口が回っちゃったのよね) (もうこうなったら引き返せないわ。ギーシュなんてぼこぼこにしてやるわよ!) 振り向かずとも、自分のすぐ後ろにシエスタが付いてきている気配を感じる。 シエスタに対するギーシュの行動は許せない。 ならば決闘だ。 そしてシエスタがルイズのことを心配するような態度も見たくない。 ならば、勝って見せればいい。 だが勝てるのか? (今の私の持てる力。系統魔法は相変わらず爆発。しかもノーコン。黒蟻は……まだ5匹が限度。この2つの魔法でどう戦えばいいか……考えるのよルイズ) ルイズは自分の持てる力でギーシュを倒す方法を思案する。しかし、考えれば考えるほど力の差を痛感する。 ギーシュの得意とする魔法。青銅のゴーレム。 高位の土メイジが使うような巨大なゴーレムではなく、人間と変わらない大きさのゴーレム。とはいえ、人間よりよっぽど頑丈で、力も強く、痛みを気にしない存在。 そしてそれを何体同時に操るのか。5体? いやもっと? 青銅のゴーレム5体を、黒蟻5匹とノーコンの爆発でどう攻略すればいいのか。 いや、もう一つ使える魔法がある。 肉体強化。 もともと女子の中で運動神経の良いほうだったルイズだが、今なら男子生徒の中に混ざっても遜色のない程度の身体能力を手に入れている。 しかしそれがなんの役に立つ。 身体能力だけなら平民の傭兵のほうがよほど上だろう。だが、そんな傭兵達でさえ魔法を使える貴族を倒すのは難しい。メイジの打破を成し遂げた『メイジ殺し』と呼ばれる者は数多いる傭兵の中でもほんの一握りの存在なのだ。 武装司書のような超人と呼ぶべきレベルにまで達しているのならともかく、今のルイズの身体能力はせいぜいギーシュと互角といったところ。 青銅のゴーレムを相手に格闘を演じられるようなものではない。 (青銅のゴーレム相手に肉弾戦は無理。蟻が咬み付いてもゴーレムじゃ痛くも痒くもなし……。どうにかして爆発を当てるしか……) いかにしてギーシュに勝つか。考えながら歩いていたルイズだが、結局答えの出ないままヴェストリの広場に辿り着き、 「ふん! 逃げずによく来たな、ルイズ!」 仁王立ちするギーシュと対面した。 「ん? 勝てる……? 勝てちゃうわ……これ」 ギーシュが視界に入った瞬間、ルイズは己以外のだれも聞き取れないような小さな声で呟いた。 ギーシュの顔を見た瞬間、一つの考えが頭をよぎった。己が勝つ姿が頭をよぎった。 それを必死にまとめようとするルイズ。 (これなら……ギーシュの出方次第だけど…………勝てる……わ!) 前ページ次ページ虚無の魔術師と黒蟻の使い魔
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使い魔を召喚した日の夜、ルイズは夢を見ていた。 それは、幼い日の記憶。 雪の中での記憶。 夢の中のルイズは、今より10程も幼い姿をしていた。 季節は冬から春へと変わる頃。 その年の冬は暖かく、過ごし易い冬であった。 しかし、冬の終わりに雪が降ったのだった。 降ったと言っても、足先が埋もれる程度でしかない。 だが、ルイズは雪に喜び駆け回った。 誰にも踏まれていない新雪に、小さな足跡を残して駆ける。 屋敷から見える風景は、全て真っ白に染まり、陽光を反射してキラキラと輝いている。 白く染まった植え込みをかき分け、ルイズは走った。 ルイズは石のアーチをくぐり、中庭の入り口に立つ。 池のほとりの船にも雪は積もり、真っ白な小島が浮かんでいる。 白い石で出来た東屋は、その白さを純白に変えている。 何時もとは違う中庭の美しさに目を奪われるが、直ぐに此処まで来た目的を思い出す。 叱られる度に、ルイズはこの場所へと逃げ込んでいたのだが、この日は違った。 この日は単純に、お気に入りの場所で雪遊びをするために来たのだ。 ルイズは、両手で雪を掬い、上に放り投げて撒き散らす。 空中に舞い散る雪は、陽の光を乱反射しながら降り注ぐ。 飽きる事無く、ルイズは何度も何度も雪を撒き散らした。 『キレイ、ずっと見ていたい……』 何時までそうしていただろうか、太陽はもう少しで天頂に差し掛かろうとしている。 陽が高くなってきた事で、雪は溶け始めていた。 その事に気が付いたルイズは、雪を撒き散らす事をやめて雪で小さな塊を作った。 その塊に、残っている雪をかき集めて中位の塊にする。 そうやって作った、二つの雪塊を持って、ルイズは東屋へ足を踏み入れた。 『ココなら大丈夫……』 東屋の中は、外よりも温度が低くヒンヤリとしている。 ルイズは、大きさが少し違う雪玉を積み重ねる。 出来上がったのは、30サントほどの大きさの雪だるまであった。 石で眼を造り、完成させる。 だが、何かが足りない。ルイズは頭を捻る。 雪だるまを見つめて考える事、数秒。 ルイズの脳裏に光が閃き、その何かに思い当たった。 指を伸ばして、雪だるまの両目の上の雪を削る。 雪だるまに太い眉毛が出来上がり、先程までより生き生きしているように思える。 ルイズは雪だるまに、様々な事を語った。 魔法が如何しても成功しない事。その度に母にしかられ、使用人には姉と比べられる事。 上の姉は意地悪で厳しいが、下の姉は優しいから好きだということ。 もう直ぐ、晩餐会が開かれて、憧れの人と会えるという事。 他にも、印象に残った出来事。どうでもいい些細な出来事も雪だるまに話した。 語り終わってからルイズは、物言わぬ友達に寂しく思った。 「……貴方も、話せれば良いのにね。 そうなったら、もっと好きになれるのに」 そう言ってルイズは思いつく。 「そうだわ。私が魔法を掛けてあげる。 春になっても溶けなくて、話す事が出来る様になる魔法よ。 今なら、きっと出来ると思うの」 短い杖を取り出し、魔法を唱える。 ルイズは、そんな魔法など知らなかったが、そうなる様に思いを込めて詠唱する。 魔法を掛ける為に、杖で雪だるまを指し示す。 だが何も起こらない。 爆発すら起こらず、雪だるまに変化も見られない。 もう一度魔法を掛けるべく、杖を振りかぶる。 だが、その行為は聞こえてきた声に中断された。 「ルイズ! そこに居るのでしょう? 早く出てきなさい。 今日も魔法の練習ですよっ!」 それは、ルイズの母カリーヌの声だ。 声にホンの少しの怒りを滲ませ、呼び掛けている。 ここで出て行かないと、苛烈なお仕置きが待っていることだろう。 ルイズは身を縮ませて、カリーヌの前に出て行った。 「ルイズ、遊んでばかりではいけませんよ! 貴女は、まだまだ多くの事を学ばねばならないのですから」 ルイズは、カリーヌに手を引かれて屋敷に戻っていった。 次の日、再び中庭を訪れたルイズが見たのは、東屋の中にある水溜りであった。 水溜りの中には、小さな氷の欠片が浮かんでおり、ルイズは涙を浮かべて、それをそっと胸に抱いた。 ・・・ その冬の出来事以来、ルイズは雪だるまを造る事はなかった。 一日限りの友達を亡くした事実は、幼いルイズの心を打ちのめし、心から魔法を渇望するようになったのであった。 しかし、そんな記憶も成長するにつれ、唯の思い出へと変わり、思い出す事も無くなっていた。 心の内に残るのは、何に変えても魔法を使えるようになるという目標のみであった。 ・・・ ルイズは眼を覚ました。 窓から射す光は太陽の暖かい光ではなく、双月の冷たい光である。 月の位置から判断するに、時刻はまだ深夜だ。 『おかしな時間に眼を覚ましたものね。 始めての魔法の成功で、気が昂ぶっているのかしら? それとも、召喚したものが原因?』 ルイズは眼が覚めた原因を考えるが、どちらもあり得る様に思える。 『魔法が成功したときの興奮は忘れられない。 でも…… それは、直ぐに落胆に変わってしまった。 なら、呼び出したもののせいであんな夢を見て眼を覚ました?』 ルイズは、その時になって自分が泣いていた事に気が付いた。 目尻に触れると湿っている。 明かりを付けて、鏡で確認すると頬には涙が流れた跡が残っている。 幼い頃を懐かしむように、ルイズは眼を閉じる。瞼の裏にはあの時の光景。 溶けて土と交じり合い、泥と成ってしまった友達の姿。 残った一握の氷。 ルイズは何かに気づいた。 顎に手を当てて黙考する。 夢に見た光景と、自分の記憶を照らし合わせる。 『あの時拾った氷は如何したんだっけ? 直ぐに溶けてしまった?』 氷なのだから溶けるのは当たり前だ。 しかし、何かが引っかかる。 『でも、大事にとっておいたような気がする。 でもどこに? 私の部屋?』 ………… 「氷は……溶けなかった?」 ・・・ 赤と青の月の光がソレを照らす。 ソレとは、ルイズが召喚して中庭に放置した使い魔であった。 ソレの周りの空気は冷えて、ソレが冷気を放って居るのが判る。 まん丸の瞳と、力強い眉。 そして、限りなく澄み切った氷の結晶が胸に埋め込まれていた。 本来ならば物言わぬ物であるが、幸い時刻は深夜。 誰もソレの事を見ては居ない。 「ルイズ、また会えたのだ」 誰も居ない中庭に、小さな呟きが聞こえた。 続かない 「ロマンシングサガ3」から『ゆきだるま』を召喚 戻る